「芥川賞と直木賞を両方取った人っているのかな?」
「芥川賞や直木賞で『ダブル受賞』というのをよく聞くけど、あれはどういう意味?」
と思っている人も多いのではないでしょうか。
日本を代表する二つの文学賞「芥川賞」と「直木賞」。
ニュースなどで「今年はダブル受賞です!」などと聞くことがありますが、あれってどう意味なのでしょうか。
この記事では、芥川賞・直木賞の「ダブル受賞」について、詳しく解説していきます。
- 芥川賞と直木賞を両方取った人はいるのか?
- 芥川賞と直木賞で使われる『ダブル受賞』とは?
- 芥川賞・直木賞の『ダブル受賞』一覧
記事を読むことで、芥川賞と直木賞に関係する『ダブル受賞』について詳しく理解できるようになりますよ。
芥川賞と直木賞を両方取った人はいない!理由は…

芥川賞と直木賞を両方取った人はいるのでしょうか。
結論からいうと、両方の受賞した人はいません。
なぜ芥川賞と直木賞の両方を取った人はいないのでしょうか。
その理由を掘り下げて見ていきましょう。
前例がない
まずは事実ベースで確認してみましょう。
芥川賞・直木賞は1935年に創設されました。
現在170回を超える授賞式が行われていますが、両方の賞を獲得した作家は誰一人としていません。
これだけ長い歴史のある文学賞で、「両方受賞した作家が存在しない」となると、偶然とは言い難いですよね。
なぜ、両方受賞することがないのでしょうか。
そもそもジャンルが違う
芥川賞と直木賞がダブル受賞されない理由1つ目は、「文学ジャンルが違う」ということです。
- 芥川賞:「純文学」「無名・新人向け」「短編小説」
- 直木賞:「大衆文学(エンタメ)」「新人〜中堅・ベテラン」「長編小説」
まず両方取るのが難しい理由として、芥川賞は「純文学(芸術性重視)の短編小説」なのに対し、直木賞は「大衆文学(エンタメ)の長編小説」を対象としているところ。
ジャンルも長さも異なる賞であるため、芥川賞と直木賞は、そもそもの土台が異なっているのです。
また、芥川賞・直木賞は、当初「無名・新人向け」の賞として創設されましたが、今では「芥川賞は無名・新人向け」「直木賞は中堅・ベテラン向け」といったような選考がされていることが多いです。
(たまに違うこともありますが)
このように、2つの賞はうまい具合に「棲み分け」がされているため、両方の賞を取ることができないのです。
そして、もう1つ、芥川賞と直木賞を両方受賞できない理由があります。
片方を受賞したら、もう一方から外される
ここまで読んだ方の中には、
「ん?両方の賞を取るためには、新人の頃に短編小説で「芥川賞」をとって、中堅ぐらいになったときに長編小説で「直木賞」取ればいいんじゃね?」
と思った方もいるのではないでしょうか。
確かに理論上はそうなりますが、それでも両方の賞を取ることはできません。
なぜなら、「芥川賞・直木賞を一度受賞すると、その作家はもう一方の賞の選考対象から除外される」と(暗黙の?)ルールがあるからです。
…ここまで長々と説明してきましたが、要は「芥川賞か直木賞を取ったら、その作家は次から対象外ね!」となるので、両方の賞を受賞することが出来ないのです。(それ、最初に言ってくれよ…)
芥川賞・直木賞の「ダブル受賞」とは

「芥川賞と直木賞の両賞を取ることはできないのに、ニュースでは”ダブル受賞”というのをよく見るけど、あれは何?」
と感じる人もいるのではないでしょうか。
私も「芥川賞・直木賞でダブル受賞!」という見出しを見たときに、
え?両方取った作家がついに現れたの?
と勘違いをしたことがあります。
『ダブル受賞』という言葉…、紛らわしいんですよね。
実は、『ダブル受賞』という言葉には色んな意味・使われ方があるので、ここで紹介しておきますね。
意味①「芥川賞2作品同時受賞」or「直木賞2作品同時受賞」のこと
「ダブル受賞」の1つ目の意味は、同一回の選考で2作品が同時に受賞することを指します。
基本的には、1回の選考につき「芥川賞1作品」「直木賞1作品」が選ばれますが、稀に2作品が同時受賞となるケースがあります。
最近の例で言えば、「2024年下半期の芥川賞」「2023年下半期の直木賞」で、それぞれダブル受賞(2作品同時受賞)でした。
- DTOPIA(安堂ホセ)
- ゲーテはすべてを言った(鈴木結生)
- ともぐい(河﨑秋子)
- 八月の御所グラウンド(万城目学)
芥川賞・直木賞で使われる『ダブル受賞』は、「どちらも甲乙つけがたいから、両方受賞(ダブル受賞)にしよう!」というように選ばれるのです。
意味②「芥川賞または直木賞」と「別の賞」を受賞すること
「ダブル受賞」の2つ目の意味は、
- 「芥川賞」と「群像新人文学賞」
- 「直木賞」と「本屋大賞」
など、「芥川賞または直木賞」と「別の賞」を同一作品で受賞することを指します。
日本には「芥川賞」「直木賞」以外にも多くの文学賞があります。
そのため、一つの作品が複数の賞を受賞することもよくあります。
最近では、市川沙央さんの『ハンチバック』が「芥川賞」と「文學界新人賞」のダブル受賞をしましたね。
直木賞では、永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』が「直木賞」と「山本周五郎賞」のダブル受賞を果たしています。
平成〜令和の「芥川賞・直木賞」と「他の賞」のダブル受賞一覧をまとめておきますね↓
「芥川賞+他の賞」のダブル受賞作品
芥川賞受賞作品 | 受賞者 | ダブル受賞 |
---|---|---|
ハンチバック (2023上) | 市川沙央 | 文學界新人賞 |
貝に続く場所にて(2021上) | 石沢麻依 | 群像新人文学賞 |
百年泥(2017下) | 石井遊佳 | 新潮新人賞 |
おらおらでひとりいぐも(2017下) | 若竹千佐子 | 文藝賞 |
影裏(2017上) | 沼田真佑 | 文學界新人賞 |
火花(2015上) | 又吉直樹 | 新風賞 |
abさんご(2012下) | 黒田夏子 | 早稲田文学新人賞 |
アサッテの人(2007上) | 諏訪哲史 | 群像新人文学賞 |
介護入門(2004上) | モブ・ノリオ | 文學界新人賞 |
蛇にピアス(2003下) | 金原ひとみ | すばる文学賞 |
水滴(1997上) | 目取真俊 | 九州芸術祭文学賞 |
ネコババのいる町で(1989下) | 瀧澤美恵子 | 文學界新人賞 |
「直木賞+他の賞」のダブル受賞作品
直木賞受賞作品 | 受賞者 | ダブル受賞 |
---|---|---|
木挽町のあだ討ち (2023上) | 永井紗耶子 | 山本周五郎賞 |
地図と拳(2022下) | 小川哲 | 山田風太郎賞 |
黒牢城(2021下) | 米澤穂信 | 山田風太郎賞 本格ミステリ大賞 |
テスカトリポカ(2021下) | 佐藤究 | 山本周五郎賞 |
熱源(2019下) | 川越宗一 | 本屋が選ぶ時代小説大賞 |
渦 妹背山婦女庭訓魂結び(2019上) | 大島真寿美 | 高校生直木賞 |
宝島(2018下) | 真藤順丈 | 山田風太郎賞 |
蜜蜂と遠雷(2016下) | 恩田陸 | 本屋大賞 |
恋歌(2013下) | 朝井まかて | 本屋が選ぶ時代小説大賞 |
容疑者Xの献身(2005下) | 東野圭吾 | 本格ミステリ大賞 |
邂逅の森(2004上) | 熊谷達也 | 山本周五郎賞 |
理由(1998下) | 宮部みゆき | 日本冒険小説協会大賞 |
鉄道員(1997上) | 浅田次郎 | 日本冒険小説協会大賞 |
テロリストのパラソル(1995下) | 藤原伊織 | 江戸川乱歩賞 |
マークスの山(1993上) | 高村薫 | 日本冒険小説協会大賞 |
青春デンデケデケデケ(1991上) | 芦原すなお | 文藝賞 |
同じ出版社の本が2冊受賞すること
「ダブル受賞」の3つ目の意味は、同じ出版社から出版された作品が、同じ回の芥川賞と直木賞をそれぞれ受賞することを指します。
出版業界では、自社の作品が芥川賞・直木賞の両方を獲得した場合、「弊社からダブル受賞!」といったPRがなされることがあります。
講談社の例を挙げると、
- 第160回(2018年下半期)の芥川賞・直木賞
→芥川賞『ニムロッド(講談社)』、直木賞『宝島(講談社)』で、講談社にとってダブル受賞 - 第123回(2000年上半期)の芥川賞・直木賞
→芥川賞『花腐し(講談社)』、直木賞『GO(講談社)』で、講談社にとってダブル受賞
このように、出版社目線から見た『ダブル受賞』もあるのです。
芥川賞・直木賞の「ダブル受賞」一覧

では、芥川賞と直木賞それぞれの「ダブル受賞」の一覧を紹介します。
ここでいうダブル受賞は、【意味①「芥川賞2作品同時受賞」or「直木賞2作品同時受賞」のこと】です。
芥川賞・直木賞それぞれのダブル受賞年の作品を見ていきましょう。
芥川賞のダブル受賞一覧
平成以降の芥川賞ダブル受賞一覧を表にしました。
受賞回(年) | 受賞作1 | 受賞作2 |
---|---|---|
172回(2024下) | DTOPIA | ゲーテはすべてを言った |
171回(2024上) | サンショウウオの四十九日 | バリ山行 |
168回(2022下) | この世の喜びよ | 荒地の家族 |
165回(2021上) | 貝に続く場所にて | 彼岸花が咲く島 |
163回(2020上) | 首里の馬 | 破局 |
160回(2018下) | ニムロッド | 1R1分34秒 |
158回(2017下) | 百年泥 | おらおらでひとりいぐも |
154回(2015下) | 異類婚姻譚 | 死んでいない者 |
153回(2015上) | 火花 | スクラップ・アンド・ビルド |
146回(2011下) | 共喰い | 道化師の蝶 |
144回(2010下) | 苦役列車 | きことわ |
130回(2003下) | 蹴りたい背中 | 蛇にピアス |
124回(2000下) | 熊の敷石 | 聖水 |
123回(2000上) | 花腐し | きれぎれ |
122回(1999下) | 夏の約束 | 蔭の棲みか |
119回(1998上) | ブエノスアイレス午前零時 | ゲルマニウムの夜 |
116回(1996下) | 家族シネマ | 海峡の光 |
111回(1994上) | タイムスリップ・コンビナート | おどるでく |
105回(1991上) | 背負い水 | 自動起床装置 |
102回(1989下) | ネコババのいる町で | 表層生活 |
直木賞のダブル受賞一覧
平成以降の直木賞ダブル受賞一覧を表にしました。
受賞回(年) | 受賞作1 | 受賞作2 |
---|---|---|
170回(2023下) | ともぐい | 八月の御所グラウンド |
169回(2023上) | 極楽征夷大将軍 | 木挽町のあだ討ち |
168回(2022下) | 地図と拳 | しろがねの葉 |
166回(2021下) | 塞王の楯 | 黒牢城 |
165回(2021上) | テスカトリポカ | 星落ちて、なお |
150回(2013下) | 昭和の犬 | 恋歌 |
148回(2012下) | 等伯 | 何者 |
144回(2010下) | 月と蟹 | 漂砂のうたう |
142回(2009下) | 廃墟に乞う | 鷺と雪 |
140回(2008下) | 利休にたずねよ | 悼む人 |
135回(2006上) | 風に舞いあがるビニールシート | まほろ駅前多田便利軒 |
131回(2004上) | 邂逅の森 | 空中ブランコ |
130回(2003下) | 後巷説百物語 | 号泣する準備はできていた |
129回(2003上) | 星々の舟 | 4TEEN フォーティーン |
126回(2001下) | 肩ごしの恋人 | あかね空 |
124回(2000下) | プラナリア | ビタミンF |
123回(2000上) | 虹の谷の五月 | GO |
121回(1999上) | 柔らかな頬 | 王妃の離婚 |
117回(1997上) | 鉄道員 (ぽっぽや) | 女たちのジハード |
114回(1995下) | テロリストのパラソル | 恋 |
111回(1994上) | 二つの山河 | 帰郷 |
110回(1993下) | 恵比寿屋喜兵衛手控え | 新宿鮫:無間人形 |
109回(1993上) | 恋忘れ草 | マークスの山 |
106回(1991下) | 狼奉行 | 緋い記憶 |
105回(1991上) | 夏姫春秋 | 青春デンデケデケデケ |
102回(1989下) | 小伝抄 | 私が殺した少女 |
101回(1989上) | 高円寺純情商店街 | 遠い国からの殺人者 |
まとめ:芥川賞と直木賞をどっちも取ることはできないが、ダブル受賞はあり得る

芥川賞と直木賞について紹介してきました。
まとめると、
- 芥川賞と直木賞の両方を受賞することはできない
- 芥川賞と直木賞の両受賞者がいない理由
- 歴史的背景:1935年創設以来、170回以上授賞されているが両方受賞した作家は一人もいない
- ジャンルの違い
芥川賞:「純文学」「無名・新人向け」「短編小説」
直木賞:「大衆文学(エンタメ)」「新人〜中堅・ベテラン」「長編小説」 - 選考ルール:片方を受賞すると、もう一方の賞の選考対象から除外される
- 「ダブル受賞」の3つの意味
- ①同一回の選考で2作品が同時受賞すること
- ②「芥川賞または直木賞」と「別の賞」を同一作品で受賞すること
- ③同じ出版社から出版された作品が同回の芥川賞と直木賞をそれぞれ受賞すること
「ダブル受賞」という言葉は紛らわしいですが、3つの意味があることを理解しておくと、惑わされずに済みますよ。
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